もう昨日になってしまいましたが、日経『経済教室』は草刈隆郎氏(政府の規制改革会議の議長)による執筆でした。
厚労省の推計によれば2030年までに労働力人口が一千万人(16%)以上減少するそうで、一方、国民医療費は(団塊世代が75歳に達する)2025年には二倍以上(70兆円近く)に増大すると予測されているとのことです。
後期高齢者医療制度導入は、政府の説明不足に導入時の手続きミスが加わり、問題が顕在化したと言います。二年間の準備期間で国民に満足な説明がなされなかったことは、失政の謗りを避けられないとしながらも、筆者は、差し迫った少子高齢化を踏まえれば、低所得者など弱者への配慮は当然だが、高齢者に一定の負担を求める方向性を言下には否定できないだろうとしています。
ただし、徹底した無駄の排除と非効率な制度の改革が大前提だとも言っています。
無駄なコストの象徴として、まず、診療報酬の審査・支払事務費を挙げています。診療報酬は医療機関が社会保険診療報酬支払基金や国民健康保険団体連合会にレセプト(診療報酬明細書)を提出、支払基金や国保連がそれをチェックして支払われるそうです。これまでレセプトの大部分は紙で作成され人手で一枚ずつチェックしていたそうですが、順次オンライン化が進み抜本的な合理化ができる環境になりつつあるようです。
支払基金は年間約8億件のレセプトを審査し支払う業務に五千三百人の職員で八百億円弱のコストをかけているそうですが、韓国では約6.5億件のレセプト処理に千五百人、百億円強のコストで済ませていると言います。業務範囲や人件費水準の違いはあれど、仮に韓国並みの効率性を達成できれば職員数やコストは三分の一で済むと言います。
支払基金の歴代理事長は社保庁の長官経験者で改革意識が希薄であり、彼ら立案の業務効率化計画は、ほぼ自然減の範囲内である一割弱の人員削減しか見込んでいないそうです。
次に、低コストの後発医薬品を普及させることを医療費削減の鍵の一つに挙げています。後発医薬品のシェアは、欧米では60%近くありますが日本では20%未満と言います(数量ベース)。
そして、一定の医療費内で質の高い医療を行うインセンティブを働かせるべく、包括払い・定額払い制度への移行を推進する必要性も説いています。優れた医療技術を持ち、治療期間短縮とコスト低減を実現できた医療機関に、より多くの「果実」が還元されれば良い、としています。欧米より四倍も長い平均在院日数の短縮も期待できると言います。
もちろん、必要で正しい治療が担保されるように診療内容が詳細に公開されることを前提とした上で、治療の「量」ではなく「質」を評価し、その対価を支払うとの発想に転換し、米国などで導入が予定されている「医療の質に基づく支払い」について採用を検討すべきである、としています。
さらに、医師不足が大きな社会問題となっていながら、実は日本の病院数が多いことを指摘して、医療現場の生産性を高める仕組みの必要性を説いています。米国の病院数が五千程度であるのに対し、日本は約九千もあると言います(人口当たりで比較すると三~四倍の多さ)。医師・スタッフ・設備が広く薄く分散配置されているため、現場の医師・スタッフが不足し、超過勤務など労働環境の悪化を招いているそうです。小さな病院であっても一定の事務スタッフや設備は必要だからです。医療機関の集約、かつ、チーム医療と十分なサポート体制の確立が肝要としています。
医師と他の医療従事者(コメディカル)との役割分担を見直し、診療所と病院のネットワークを形成し、遠隔医療体制の構築を進めれば、高度な医療の提供と医療現場の生産性向上が両立でき、また、勤務医の過酷な負担軽減にも寄与できるだろうと言います。
最後に、混合診療を認めないことで、保険収載されていない新しい治療を試す機会が失われている弊害を指摘しています。混合診療は庶民を助けるもので、公的保障の範囲を狭め民間保険の拡大による利益追求を狙っているなどの批判は的外れである、と言います。
医療分野の規制を国際水準に合致させグローバルに開放することで、技術・コスト両面で国際競争力が高まる可能性が大きいことを強調し、また、外国から多数患者が来訪し日本の医療需要が大きく拡大すれば、医療技術の発展・普及に寄与するばかりか、医療の質の向上と医療供給体制の強化にも通ずるはずである、と結んでいます。
★診療報酬・・・病院や診療所が医療保険などから受け取る医療費の単価で、国が決める。診療行為や医薬品で約2万2千に分類され、2年ごとに改定する。前回の2008年度改定では医療費を医師の技術料にあたる「本体部分」で0.38%上げ、薬価で1.2%下げることが決まった。全体では0.82%下げた。改定率が1%上がると、国庫負担が800億円超増える。(2009/7/10日経より転載)
★診療報酬・・・国が医療行為や薬、医療機器ごとに決める医療費の単価。約2万2千に分類される。
全国一律で同じ価格が適用され、医療機関が医療サービスの対価として受け取る。患者の窓口負担と医療保険の保険料、税金でまかなわれる。2年に1度改定しており、次は2010年度に改定する。(2009/8/8日経より転載)
【後日記】『医師不足対策 医療機関の連携強化 診療報酬も見直し』
6/6の日経によれば、社会保障国民会議は、医療・介護・福祉分野について議論する「サービス保障分科会」(座長・大森弥東大名誉教授)を開き、中間報告の骨子案を大筋で了承したそうです。
医療機関が役割分担する体制づくり、医療機関と医療従事者の効率的な再配置、現行の医療機関ごとに評価する診療報酬の仕組みの見直し、主治医とケアマネージャーらが共同で一人の患者を治療・介護する体制づくり、等を求めています。
【後日記】6/19の日経によると、厚労省は「安心と希望の医療確保ビジョン」会議で、(「医師が全体として余っている」としていた)方針の転換を表明したもよう。
しかしながら日経によると、医師全体は徐々に増えているとのこと。医師は設備の整った都市部の大病院や皮膚科開業医など特定の診療科に集中する一方で、地方の中堅病院や産科・小児科、緊急部門で不足が深刻化するなど、偏りが目立つと言います。
報告書では、不足がちな産科や小児科の勤務医を増やすため、女性医師の積極活用を進める、としています。また、若い医師が都市部や特定の病院に集中する一因となった臨床研修制度も見直すそうです。一人で幅広く診察ができる「総合医」の育成も支援するとのこと。
日経は、大学の医学部定員を増やしても現場の医師数が増えるのは十年程度の期間がかかる、と指摘します。割安な後発医薬品の普及促進や診療報酬のオンライン請求による医療の効率化などは緒に就いたばかり、と言い、社会保障を抑制する努力を怠ったままで医師不足対策を優先させれば、財政規律を損ない次世代にツケを回すことになりかねない、と警鐘を鳴らしています。
【後日記】6/20の日経の社説から部分抜粋、転載。
そもそも医師国家試験の合格者数は年間八千人弱だ。引退者や死亡者を引いても毎年四千人程度も純増している。やはり医師の都市集中という構造問題をどう解きほぐしていくかが大きな問題になろう。
例えば、知事の主導で一定期間の僻地勤務を条件にした県立医大などの学費優遇をもっと広げるべきだ。診療報酬政策にめりはりをつけて僻地勤務医の待遇を高め、都市部の開業医は下げる大なたも必要だ。女医が多い産科・小児科を抱える病院は、短時間勤務の制度化など企業が取り組み始めた育児支援策を見習ってほしい。外国人医師が診療できるような規制改革も推し進めるべきだ。
医師不足は医療提供側だけの問題ではない。風邪を引いた程度で大学病院の外来に駆け込むような患者にも行動の自制が求められている。
【後日記】6/20日経。東京都が06年九月から休止していた都立豊島病院(東京・板橋)での分娩を再開する、とのこと。産科医四人を確保したそうです。都内の大学と産科医の派遣で合意した、とあります。「今年度から産科医の年収を引き上げたり、異常分娩の手当てを創設するなどの待遇改善策が医師側から評価された」(都・病院経営本部)と言います。都内の産婦人科は十年で一割強減少しているそうです。
また、都の外郭団体、都保険医療公社が運営する荏原病院(東京・大田)も昨年十月から休止している分娩取り扱い開始の目処がついた、としています。
【後日記】『魅力ある地域の病院作りを』
7/12の日経社説から部分抜粋、以下要約します。
最近、医療関係者の間で注目されている病院がある。兵庫県丹波市にある県立柏原病院だ。小児科医が辞めていく危機に地元の主婦らが立ち上がった。「コンビニ受診」によって医師に負担をかけるのをやめようと、市民への呼びかけを広めていった。その結果、辞めようとした医師もとどまり、さらに今春以降、三人の小児科医が新たに赴任した。
若い医師が行きたくなる病院は、症例数が多い、優秀な指導医がいる、といったことが条件になると言われている。それも必要ではあるが、最近では「病院内にとどまらず、積極的な在宅医療や開業医との連携ができる」「看護師など他の職種との連携がとれたチーム医療が実施されている」「しっかりとした病院医療の方向性がある」などの理由も増えてきた。地域住民にも受け入れられ、ゆとりある地域医療を経験したいということだろう。柏原病院に限らず若い医師が希望する地方の病院は少なくない。厳しい環境の中で、病院の努力も求めたい。
【後日記】『中小医療機関にデジタル化の波 政府の優遇策が後押し』
日経7/15によれば医療機器メーカーが中小医療機関のデジタル化を支援するシステムを相次ぎ販売するようであります。
東芝メディカルシステムズはベッド数十九以下の診療所向けに電子カルテに診療報酬明細書(レセプト)や医療用画像管理の機能を加えたシステムを発売するそうです。
GE横河メディカルシステムはベッド数二百程度の中小病院向けに画像情報システムを発売すると言います。
富士フィルムは販売子会社の営業担当者全員に開業医向け販売ノウハウを習得させるとのこと。一台のモニター上で内視鏡の動画や血液検査結果などを一元管理できるシステムなどを販売するとしています。
政府は今年度、診療データをX線フィルムなどではなくデジタル保存した場合に、診療報酬を上積みする優遇策を導入。レセプトのオンライン請求も今後導入するとしています。経営に余裕がないため電子カルテや画像情報システムの導入が遅れていた中小医療機関も今後は導入を迫られそうと言います。
★画像診断・・・人体を透過した放射線や電磁波のデータをデジタル画像にして診断する技術。診断にはCT(コンピューター断層撮影装置)やMRI(磁気共鳴画像装置)やPET(陽電子放射断層撮影装置)を使う。画像診断は大量のデータが得られ肉眼では判別つかない例もあるため解析ソフトなどの性能向上が求められる。日経6/20より。
高齢化に伴いがん患者は増え日本人の死亡原因の三割を占めるまでになったそうです。早期発見、切らないがん治療が広がれば、五年後には日本の市場が現在の二倍強、480億円になるとの見方もあるようです。
富士フィルムはがん発見のための診断ソフトを開発したそうです。乳がん検査用のエックス線撮影装置の画像から乳がんの兆候となる石灰化を98%判別できるそうです。東大病院22世紀医療センターとの共同研究で更に性能向上、機能拡大を狙う、としています。
三菱重工業も京大と共同でCTを利用した治療装置を開発したそうです。機械制御のノウハウを応用しているとのこと。放射線照射のずれは0.2ミリメートル以下で患者の負担が少ないと言います。
【後日記】『予防 費用対効果の視点で』
日経連載「蘇れ医療」第2部からです。本日7/28は①-白熱「コスト論争」-です。
がんや心筋梗塞といった喫煙で増える病気の超過医療費は推計で年四千七百億円になるそうです。薬とカウンセリングで禁煙をサポートする治療が、現在、健康保険の適用対象となっており、年間約十五万人が禁煙治療を受け、約三割が成功したといいます。五十嵐東大助教の推計では生涯医療費の削減幅は五百三十億円で、治療費四十八億円を引いても経済的であるとしています。しかしながら、そもそもの非喫煙者からするとすっきりしない話ではあります。
国際医療福祉大の池田教授の見積もりでは、平均的な高脂血症の六十歳男性に高脂血症薬を投与し、心筋梗塞を一例防ぐのに必要な薬剤費は千九百万円から四千二百万円になるそうです。男性の発症確率10%は投薬で6-8%に下がるそうで、これを人数に換算すると、三十~四十人が薬を飲んでようやく一人の命が守れる計算です。
血圧やコレステロール値を下げる「メタボ対策」は薬代だけで年間一兆二千五百億円の巨大市場になっているとのこと。新横浜ソーワクリニックの別府院長は「いったん薬が承認されるとリスクがほとんどない人にまで幅広く処方される」と指摘しています。
韓国政府は、十種類以上ある高脂血症薬のうち保険適用を、費用対効果が高い薬だけに絞る方針を決めたとのこと。「ムダな薬は去れ」との指針に、学会や製薬業界が猛反発しているそうです。しかしながら、薬の費用対効果は欧米を中心に世界標準になりつつあるといいます。
【後日記】『遠隔医療 対象を拡大』
総務省と厚労省が共同開催している「遠隔医療の推進方策に関する懇談会」(座長・金子郁容慶大教授)がまとめる中間報告の提言を受け、両省が必要な措置の検討に入る、としています。日経7/31より。
★遠隔医療・・・医師がテレビ電話を使って患者を診察したり、検査画像をインターネット回線で大病院に送って専門家の判断を求めたりする医療サービス。厚生労働省は遠隔医療を対面診療を補完するものと位置づけ、慢性期疾患を抱える患者で症状が安定している七つの症例に当てはまるケースのみ遠隔医療が可能との見解を通知で示している。ただ、医療現場からは「通知は条件が細かいうえにあいまいな個所も多く、遠隔医療の普及の妨げになっている」との指摘が出ている。
【後日記】『医師不足に歯科医の活用を』
8/18の日経「領空侵犯」は同志社大学学長の八田英二氏でした。以下、転載します。
-医師不足が叫ばれ、へき地や産科、小児科、救急などの医師は特に足りないようです。政府もようやく大学医学部の定員増を認めました。こうした状況にご意見をお持ちだとか。
「定員を増やしても学生が医学部を卒業するのに六年かかります。国家資格を取得し臨床研修などを受けていると、一人前の医師になるのに十年以上はかかるでしょう。これでは現在の医師不足の解決にはなりません。それに医師を取り巻く環境をそのままにして、いくら医学部定員を増やしても、激務の病院勤務を嫌がったり、女性医師が出産を機に離職したりする傾向は変えようがありません」
「今打ち出すべき対策は潜在的な医師の予備軍を積極的に取り込んでいくことではないでしょうか。考えられるのが医師に比べて多すぎるとされる歯科医の活用です。歯学部の学生は医学部同様、六年間大学で勉強します。基礎医学についてはほぼ同じような内容を学びます」
-患者からすると不安な面はないでしょうか。
「熱意があって希望する歯科医を選抜し、二年ほど改めて研修を受けてもらえばよいと思います。歯科医は麻酔の扱いにも慣れていることが多く、歯科口腔外科では手術時に全身麻酔をかけることだってあります。そういうことを考慮すると、一定の研修のうえで麻酔科医としての限定免許を与えることも検討に値します。麻酔科医も大幅に不足しているわけですから」
「外国人医師も取り込んでいくべきでしょう。先日、上海を訪れたとき、大学の医学部希望者が少ないことを知りました。医者の給料が低いからだそうです。ならば、一定の給料は得られる日本に来てもらってはどうでしょう。流ちょうな日本語能力を必要としない診療科などなら活用の余地はあると思います。このほか、女性医師が増えているのですから、彼女たちが出産しても仕事を続けていけるような保育所の整備、待遇の改善を進めるべきです」
-医師が増えたとしても、地方やへき地に行きたがらないという問題への対策はありますか。
「国公立大学の医学部はすべて授業料を免除し、奨学金も出すようにして、その代わりに卒業後は地方やへき地での勤務を義務付けてもいいと思います。自治医科大学などが導入しているものと似た方式です。医療の公共性を考えると、公費で医師を育て、育てられた医師は一定の義務を負うという形はおかしくはないでしょう」
【後日記】『薬の診療報酬 健保組合が直接審査』
トヨタ自動車とNECが薬局と直接契約し、レセプト審査・支払いを始めるそうです。
病院や調剤薬局が健保組合へ請求するレセプトについて、これまで厚労省管轄の社会保険診療報酬支払基金に手数料を払って、審査・支払い業務を委託していましたが、基金が独占的に審査や支払いをするのでは審査が甘く効率が悪い、との指摘もあったようです。直接審査によって過剰な投薬による過払い発見にもつながれば医療費の削減も見込めそうです。
政府は2005年に薬のレセプトの直接審査・支払いを解禁。07年には処方箋を発行した医療機関の同意を不要とする規制緩和も実施したものの、これまで実施した健保組合はなかったといいます。
以上、9/20日経より。
【後日記】『臨床研修 短縮巡り議論』(11/9の日経より抜粋)
医師臨床研修制度には「研修医の大学病院離れ、都市集中を加速し、医師不足を招いた」との批判が付きまとう。これに対し医師臨床研修マッチング協議会の杉本満信部長は「大学離れは二割程度にとどまるし、都市集中も必ずしも当たらない。一部に誤解がある」と強調する。
同協議会公表のデータを基に制度導入後の2004-09年度の研修医数を導入前の03年度と比較すると、都道府県で最も減少したのは京都で29.2%減。鳥取、山口、徳島、群馬、広島、奈良、東京の七都県も研修医の数が二割以上減った。
最も研修医が増えたのは78.4%増となった沖縄。岩手、島根、埼玉も五割以上増えた。地方でも、県庁所在地や中核都市の病院には研修医が集る傾向がある。
以前は新人医師の七割が大学病院の「医局」に入り、研修を受けていたが、制度導入後は五割前後に低下。厚生労働省は今年八月、大学病院に限り、研修要件を緩和して、産科や小児科などの専門教育を充実できる「特別コース」を認めたが、同コースを設定した四十大学病院のうち、前年より研修医が増えたのは十五病院にとどまった。
内訳をみると、二十六病院が設けた「産婦人科コース」は定員計六十二人に対し研修医は二十九人、二十九病院が設けた「小児科コース」は定員計七十人に対し四十人で、いずれも充足率は五割前後だった。
期待する効果が出なかったことについて、同省は「特別コースは急きょ各大学に設定してもらったので、周知が間に合わなかった。来年以降の動向も注視したい」としている
★臨床研修制度 ・・・医学部を卒業し、医師国家試験に合格した医師が受ける研修。2004年度に導入され、二年間に内科や外科、小児科、産婦人科、精神科、救急など複数の科を経験することが義務付けられた。幅広い診察能力を育成することが狙い。研修医のアルバイトは禁止だが、給与などの待遇は改善した。
医学生は研修を受けたい病院に自由に応募できる。学生と病院双方は医師臨床研修マッチング協議会にそれぞれの希望順位を登録し、順位を基に”お見合い”方式で機械的に研修先を決める。
【後日記】『世界では評価高い医療制度』(2009/1/1日経より転載)
救急車で運ばれた患者を受け入れてくれる病院が見つからない例が続いている。病院の閉鎖や、産婦人科・小児科など一部診療科を休止する病院も相次ぐ。この現状だけを見れば意外かもしれないが、日本の医療制度は実は世界的には評価されている。
日本の平均寿命は現在、男性79.19歳で世界第三位。女性は85.99歳で第一位。介護などを必要とせず健康で自立した生活ができる健康寿命も世界で最も高い部類。新生児の死亡率の低さも世界トップクラス。このような成果に対する医療の貢献度は高い。ある程度の質が高い医療を多くの国民に提供してきたといえる。
また国民の健康を維持するために、公的医療保険の保険証があればどこの医療機関でも気軽に受診できる体制を整えていたという点も、日本の特徴だ。海外では米国のように、四千万人以上もの国民が公的な医療保険に加入していないといった例がある。公的保険が整備されている欧州でも、患者はまず決められた地域の医師に診てもらい、必要がある場合には大病院や専門病院にかかるといった仕組みの国が珍しくない。
一方、日本が医療にかけてきた費用は少ない。経済協力開発機構(OECD)が2008年にまとめた統計では、国内総生産(GDP)に占める日本の総医療費の比率は8.2%。米国(15.3%)やフランス(11.1%)に比べ低く、OECD加盟国の中でも低い部類。あまり費用をかけずに成果を収めてきたわけだ。
だがこのようなシステムがもう維持できなくなりつつなるのが現状。医療費抑制が続き医療現場の人手は足りない。激務となるが、それに見合う報酬が得られるとも限らない。辞めていく医師らが相次ぐ。患者と医師らの間の相互理解も足りず、診療に関して不信や不満が渦巻く。
「高い質」「受診のしやすさ」「費用の安さ」。医療の世界ではこの三つを同時に達成することはできないとされる。これからの日本も、医療の質と受診のしやすさを確保するならば、医療に今よりも大きな費用をかけざるを得ない。逆に負担増を拒否するならば、質の低下や気安く医療機関にかかれなくなる事態を我慢するしかない。決断は迫られている。
【後日記】『臨床研修制度 見直しに賛否』(2009/3/8日経より転載)
新人医師が受ける二年間の臨床研修制度が2010年度から見直される。国は研修内容の弾力化と都道府県ごとの募集定員上限を導入することで、深刻な医師不足の解消を狙う。関係者の間には「地域医療の支えになる」と期待の声もある半面、「良医育成の理念がない」「医師不足の解消効果は小さい」と疑問視する声も小さくない。
今月二日の医道審議会部会が了承した見直し案は、必修科目を現在の七科目から内科、救急、地域医療の三科目に削減した。基礎的な研修を「実質一年」にすることで、研修医を即戦力として活用できるという。さらに都道府県ごとに募集定員の上限を設け、都市部に集まりがちな研修医を地方に誘導する。
「医学部を出た後、県外に出る医師が減れば、地域医療を支える人材が増える」。島根県医師確保対策室の木村清志室長は歓迎する。
同県の島根大学医学部は毎年約百人の医師を輩出するが、県内に残るのは半数程度。今回の見直しで同県は、今年度採用実績(三十七人)の3.5倍に当たる百三十人の定員上限を割り振られた。木村室長は「若い医師には過疎地医療を”食わず嫌い”している面がある。先入観を捨ててもらえるよう、魅力的な研修を大学院と一緒に考えていきたい」と意気込む。
これに対し、河北博文・東京都病院協会会長は「総合的な診察能力を持つ医師を育てようという制度創設の理念を無視している。質の高い臨床医が育ち始めていたのに台無しになりかねない」と疑問を呈する。医師派遣を担う大学病院を募集定員で優遇する点についても「高度医療を担う大学病院では一般的な病気の経験を十分に積ませられないとの反省から、一般病院にも臨床研修をやってもらおうというのが制度の狙いだったはずだ」と手厳しい。
大学側も手放しで歓迎している訳ではない。
三重大の臨床研修の責任者、佐川典正・産婦人科教授は「制度の検証が不十分。現場の声も反映しておらず、効果は不透明だ」と指摘する。04年の制度スタート後、三重大病院は一時、研修医が一ケタ台にまで減少。「産婦人科や小児科など本当に人が足りない科に医師が集まる保証はない」と訴える。
厚労省は昨春、大学病院に限って、今回の見直しと同様に専門科研修の期間を長くできる「特別コース」の設置を認めた。だが特別コースを設置した四十病院のうち、前年よりも研修医が増えたのは十五病院だけで、「医局への回帰」につながらなかった。
同コースは今回の見直しの試金石とも言えるが、同省検討会ではほとんど議論されなかった。10年度からの実施に間に合わせるため、医道審がわずか二回の会合で都道府県の定員上限を決めるなど、十分な検証を経ずに見直された面があるのは否めない。
同省検討会では「医師不足の責任を若い研修医にだけ負わせるのはおかしい」との意見が相次いだ。「良医の育成」を目指す研修制度と、地方の医師不足とは本来、別の問題。地方の病院で不足しているのは、研修医ではなく働き盛りの中堅医師で、医療現場では「起きている現象と国の対策が食い違っている」との批判も根強い。
仮に地方の研修医が増えても、研修を終えた三年目以降の医師がそのまま地方に残るとは限らない。医師不足問題は臨床研修制度の見直しだけで解決するほど単純ではなく、大学教育や専門医制度なども含めた総合的な見直しが重要だ。北村聖・東京大教授は「今回の見直しは大山鳴動して鼠一匹。落ち着くところに落ち着いたと思うが、まだまだ改善の余地はある」として冷静な検証を求めている。
【後日記】『レセプト完全電子化を後退させるな』
2009/3/9日経の社説より転載します。
経済社会の様々な場面でIT(情報技術)が革新し、くらしが便利になっている。だがIT化が遅れている分野もまだある。代表は医療だ。
医療機関が患者を治療したり薬を処方したりしたときに健康保険組合などに出す診療報酬の明細書(レセプト)も、IT化はさほど進んでいない。2008年十二月診療分の電子請求の割合をみると、病院は57%だが診療所は4%にすぎない。歯科の請求にいたっては、いまだにすべて紙のレセプトに頼っている。
政府は11年度から完全に電子化すると閣議決定済みだ。ところがこの公約をほごにして「完全電子化」を「原則電子化」に変え、三月中に閣議決定し直すよう求める声が自民党内に急速に広がりつつある。
同党の支持基盤である日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会の反対運動を受けた動きだ。その理由として、専用のコンピューターシステムを導入するための投資負担が重い、高齢の医師が経営する過疎地の診療所は電子請求の作業に十分に対応できない、などをあげている。
しかし、これらは電子化を忌避するための言い訳ではないか。診療所のシステム投資には税制上の支援策や厚生労働省の独立行政法人による低利融資がある。診療報酬政策でも電子化への加算制度を設けた。コンピューター操作に難がある高齢医師などを対象に、地域の医師会が請求を代行する仕組みも準備中だ。
完全電子化は必ず成し遂げるべき医療制度改革の柱である。請求事務の効率化や人件費の圧縮を通じ、国民医療費の増大を抑えるのに役立つからだ。電子請求があまねく行き渡れば、病気の種類ごとに治療方法を標準化する作業にも弾みがつく。
さらに医療機関が診療報酬を請求する家庭が健保組合や患者本人にガラス張りになり、過大請求や不正請求があった場合は即座に見抜けるようになる。一部の医療関係者に根強い反対論の根っこに、ガラス張り請求への抵抗があるのだろうか。
医療政策に影響力を持つ自民党議員のなかには、電子化を強いれば閉院を余儀なくされる診療所が出てくるので地域医療が崩壊するという声がある。小泉構造改革の負の側面だとレッテルを張り、世論の共感を得ようという思惑も見え隠れする。
その背景には、次の衆院選で電子化への反対を掲げて医師会などの票を取り込もうとする一部の野党の戦術があるようだ。与野党の間に患者や国民の立場より圧力団体の利益優先を競う風潮があるとすれば、憂うべき事態である。
【後日記】『頼れる「かかりつけ医」効率的な診療 実現の要』(2009/3/27日経より転載)
過疎と高齢化に直面する北海道の寿都町。約三千六百人の町民が頼りにするのが町立診療所で働く四人の「家庭医」だ。
「お子さんの骨はズレていないから、手術をしなくても治るよ。このまま様子を見ましょう」。所長の中川貴史(32)が話しかけると、こわばっていた母親の顔から笑みがこぼれた。高血圧の女性に体調を尋ね降圧剤を処方。高齢男性の中耳炎も治療した。
いわば「医師の何でも屋」。がんなどが疑われ精密検査や手術が必要な場合には専門医や大学病院を紹介。その判断を的確に下す訓練も積んでいる。
設立は四年前。厳しい財政状況が続くなか、町は同じ場所にあった赤字続きの道立病院を道から「(引き受けないのなら)休止もあり得る」と迫られ、診療所に転換する決断をした。
六十床あったベッド数を十九床に減らし「大丈夫なのか」という町民の不安を招いた。選んだのは国内では珍しい家庭医療の専門医チームを招く試みだった。
何でも診てくれる便利さから利用者は年々増えている。道の調査では町民の約七割が「道立だったころよりよくなった」と小さな町の大胆な改革を評価する。遠くの大病院に駆け込む前にまず診療所に来る人が増え「無駄な検査や投薬を省くことができた」(中川)。町民一人当たりの医療費は一割減り、町全体でみると九千万円削減できた。
「かかりつけ医」とも呼ばれる家庭医は欧米では広く定着している。英国ではかかりつけ医に相談してからでないと病院に行くことはできない。
一方、日本はどの医療機関も自由に受診できる。この「フリーアクセス」は高度な医療をだれもが受けられる半面、かぜのような軽症で大病院が込み合い「重症者が後回しになる」「時間をかけて診療してもらえない」などの弊害も生んだ。
寿都町の試みを全国に普及させるにはフリーアクセスの是非を巡る議論を避けては通れない。日本家庭医療学会代表理事の山田隆司(54)は「限られた医療資源を効果的に配分するには、国内でも家庭医の存在が鍵を握る」と話す。
効率分配に向けた取り組みは命にかかわる救急現場では待ったなしの状況だ。
兵庫県伊丹市で一月、交通事故に遭った男性が救急搬送の受け入れ先が見つからず、十四病院に断られ死亡した。一方で救急車を利用する人の58%が軽症患者であることが市の調査でわかった。必ずしも救急医療が必要でない患者が現場に負担をかけ、必要な人に医療が届かない現実・・・・・・。
「必ず医療機関に搬送してもらえる」に次ぎ「どこで受診したらいいか分からなかった」との回答が多かった。相談先の不在が安易な119番に向かわせる。
市は昨年七月、医療相談サービスのティーペック(東京)に委託し二十四時間無料相談に応じる電話サービスを始めた。半年で九千二百件の問い合わせがあり「子どもの急病について聞きたい」などの相談が多かったという。市の担当の後北桂子(50)は「軽症者の受け皿になった」と話す。
北海道大教授の前沢政次(61)も「家庭医や看護師が気楽に相談に乗る仕組みを築けば、ゆるやかなフリーアクセスの制限は可能。最後は患者のためになる」と指摘する。
金融危機に端を発した今回の不況は命の安全網のひずみをいくつも浮き上がらせた。苦境をばねに課題を一つずつ解決すれば蘇る余地は十分ある。(敬称略)
【後日記】『本領を発揮できる医療に』
2009年7月20日の日経論説委員長の文から抜粋して以下、転載します
患者が激しい頭痛を訴えたのは夜11時過ぎ。救急車に来てもらい車に乗せたが救急隊員による病院探しは難航する。国立、都立、共済病院は脳外科医が不在だという。15分近くたって東京・品川の私立医大病院が受け入れてくれた。
当直の若い医師の診断は脳動脈瘤破裂による、くも膜下出血。翌朝熟練した専門医の出勤を待って手術に入る。顕微鏡を使った手術に医師は8時間近く集中した。前夜に診察した医師も手術に加わり、24時間以上の勤務に。
手術は成功。術後の管理もよく30歳の患者は後遺症もなく退院した。かつて祖母と母を同じ病気で亡くしたので、現代医療のとてつもない威力を知った。同時にそれが外科医、救急医や看護師の激務に支えられている事実もよく分かった。
医師不足というが、2006年度までの10年間に医師全体では8.3%増えている。減ったのは外科と産婦人科などだ。脳卒中や心臓病、がんなど重病の治療にあたる外科医の減少は特に深刻である。
外科医や産婦人科が減る原因は様々だ。仕事がきつく、48時間の連続勤務もあるという。医療過誤訴訟のリスクも高まった。5年前、福島県で帝王切開を受けた産婦が死亡し、執刀医が逮捕された。裁判で無罪となったが、「逮捕」が医師たちに衝撃を与えたという指摘が多いのも事実。
もっとも、苦労やリスクの大きさだけでなく「報い」の少なさもあろう。
今回のくも膜下出血手術には医師、看護師ら12人が8時間かかわったが、病院に入る報酬(健康保険の支出と患者負担)は72万円。一方、眼科の白内障手術は一件約12万円だが、多くは30分程度で済み、日に何件もこなす開業医が多い。
病院と診療所医師(開業医)では再診料も違う。開業医は医学管理料という名の加算を含め2960円とれるのに、大病院だと700円の例もある。
これらの結果、病院には実入りが少ない。勤務医の年収は開業医の6割弱(中央社会保険医療協議会の調査から)。それにも増して病院は医師を増やす余裕がないので、高齢化による患者の増加で医師が忙しくなっている。結果として外科医などはますます去る。
さすがに厚生労働省もこれではまずいと診療報酬の是正を試みるが、開業医の反発はなかなかに強い。
【後日記】『行政の刷新とは何か』(2009/10/3日経より転載)
鳩山新政権では行政刷新担当大臣として仙谷由人氏が任命され、行政の無駄の削減に挑むことになった。しかし何が無駄遣いなのかという判断はそう簡単ではない。当面は役人の天下りやダム造りなどの分野に取り組んでいくわけだが、それだけでは新政策のための財源すら賄えないだろう。本来の無駄遣いとは、実は国民自身の行動に根差しているものも少なくない。例えば、医療が典型例である。
最近発表の経済協力開発機構(OECD)の対日審査報告でも、日本は人口当たりの病床数や診察回数が飛び抜けて多い点を指摘していた。医療界では周知の事実だが、医療の充実を求める声が強い中では無視されがちだ。
欧米には例の少ない「社会的入院」という現象は、介護保険ができても一向に解決しない。治療の必要性がなくなった患者が退院しなければ、運動不足などから体力が衰え、要介護者になる。家族の介護負担を医師や看護師にしわ寄せするインセンティブは大きく、空きベッドを防ぐ病院経営の方針と相まって社会的入院は減らない。保険者などがチェックする仕組みも十分でなく、長期入院の診療報酬を下げても病院間での患者のキャッチボールは可能だ。
厚生労働省は療養病床の削減に努めるというが、実質的な社会的入院は一般病床にも少なくない。これを解消するとともに空きベッドにも一定の報酬を支払う仕組みがなければ、救急患者のたらい回しはなくならない。
社会的入院は介護施設の不足によるといわれる。しかし要介護認定など一定のチェックがある介護分野に対し、そうした制約のない病院が乱用されるインセンティブを放置すれば、医療費は際限なく膨らみ続けるだろう。
高度な診療を行う病院への診療報酬を手厚くする一方で、どこでも自由に開業できる診療所の報酬を見直すメリハリも必要である。どんな軽度の医療にも7割以上の公的保険が支給される夢のような仕組みは、急速な高齢化が進む日本社会では維持可能ではない。医療費の重点配分へのコンセンサスが不可欠だ。
明らかな行政の無駄の削減は、各省大臣でも可能である。行政刷新会議には、それを超えた国民生活の無駄をつくり出す制度の改革が求められる。これに対する各界の反対をどこまで抑え込めるかが、その存在意義を示す大きなカギとなる。
【後日記】『医療の現場 余裕失い医師の負担感大きく』
「地域医療の崩壊」がよく話題になる。救急患者のたらい回し、病院の休止や閉鎖、医師・医療従事者の疲弊などそれを裏付けるニュースには事欠かない。象徴的なのは2008年9月に経営難と医師不足により休止に追い込まれた銚子市立総合病院だ。地域住民に与えた動揺は大きく、その後市長がリコールされる事態にまで発展した。
もともと医療崩壊とは、患者でも行政でもなく医師から発信された概念であることに注目したい。06年に泌尿器科医の小松秀樹氏が同名の著書を発表。医療費抑制と安全の両立という難しい要求をされつづけることに疲れ、日本の病院から医師が離れている現状を訴えている。
また06年に福島県立大野病院で産科医が逮捕された(後に無罪が確定)ことなど、法的責任を厳しく問われるようになったことも医師の負担感が高まる原因となっている。
医療の現場が余裕を失い、崩壊現象を起こしている原因の一つとして、小泉政権以後の医療費抑制策が挙げられることが多い。だがそれが原因の根本なのだろうか。
図に示したとおり、確かに日本の医療費は主要6カ国の中では国内総生産(GDP)に占める割合においても、購買力平価に換算した1人当たりの金額においても、最も低い水準にある。米国の約半分程度であり、フランスやドイツなどと比べても2割程度低い。
だがこうした状況は04年に英国に代わって最下位に転落した点を除けば、ほぼ20年間変わっておらず、近年格差が急速に広がったわけではない。最近になって地域医療が劣化した主因とするには無理があるだろう。
以上、2009/10/6より連載の日経ゼミ(慶応義塾大学医学部医療政策・管理学教室の池上直己教授による執筆)から抜粋しました。ちなみに上記の主要6カ国とは米国・カナダ・フランス・ドイツ・英国・日本です。
【後日記】『医師の離職・偏在 都道府県格差はむしろ縮小』(2009/10/7日経より転載)
地域医療が「崩壊」するときはおおむね以下の段階をたどる。まず医師が病院から立ち去り、歯抜けのように診療科が休診し、最後に病院そのものが閉鎖に追い込まれる。疲れ切った医師が病院から離れるのが引き金となるケースが多い。
では立ち去った医師はどこへ向かうのだろう。世間一般では、仕事が楽で収入が多いといわれる診療所(入院施設はないことが多く、あっても19人分以下の医療機関)に大挙して移ったという印象が持たれている。
だがグラフで示したように、病院(20人以上が入院できる医療機関)に勤務する医師数は一貫して増え続けている。医療崩壊が叫ばれる前の2000年の方が、06年より病院勤務の医師の割合が大きい。(注.”大きい”ではなく”ほどんど変わらない”と筆者は書きたかったのだろうと思う。なお、絶対数としては診療所勤務医も病院勤務医も同様に増えている。-by けんchang)すなわち一部の病院からは医師が立ち去ったが、その多くは別の病院で診療を続けていることがわかる。
「地方の病院から首都圏の病院へ移ったのでは」との指摘もあるだろう。だが都道府県ごとの人口10万人あたりの医師数を比較すると、最も多いところと最も少ないところとの格差は、1994年には2.34倍だったが06年には1.99倍まで縮小した。都道府県ごとの医師数の偏在はむしろ是正されている。
しかしよく考えると、このように病院の医師数が増えたうえ、都道府県間の格差が縮小したのは、当然といえる。現在でも医師数は、毎年約3500人ずつ純増を続けているからだ。
1970年代には各県に最低1医大が配置され、医学部の定員は倍増した。現在はピーク時より1割弱少ないが、高水準を保っていることには変わりない。子育てで離職を経験する女性医師の割合が増えていることを差し引いても、全体の労働力が大幅に増えていることは間違いなさそうだ。
それにもかかわらず一部病院で医師の立ち去りが起こるのは、医師一人一人にかかる負担が従来より大きくなっているからだ。単純に医師数を増やせば解決するという問題ではなく、その構造的要因に目を配る必要がある。
【後日記】『産科医の減少 集約による医療機関減で不足感』(2009/10/8日経より転載)
地域医療崩壊の象徴的な出来事とされるのが、産科や産婦人科、小児科の休診が目立つようになったことだ。北海道根室市のように、地方自治体内に産科を持たない「空白地区」も珍しくない。
まず産科や産婦人科の医師数をみると、確かに減少している。図で示したように2006年は1万74人で12年前より約1割減少した。ほぼ同じ割合で分娩数も減少しているため、数字だけをみれば医師1人当たりの負担は増えていない。だが従来より既往症を抱えた状態での妊娠や低体重児の出産などが目立つようになり、分娩数は同じでも確実に負担は増している。
産科や産婦人科の医療機関の数は、医師より減少幅が大きくなっている。病院の数(07年調査)は1539で13年前より3割強減っており、診療所(05年調査)も4381と12年前から2割減った。
減少の背景となっているのは、日本産科婦人科学会が患者の安全性確保と医師の負荷軽減を目的に、1病院あたり5人以上の常勤医を配置する目標を提示したからだ。実際に07年の1病院あたりの産科医の数は3.6人で、13年前より0.7人増えている。
産科医を集約すると妊婦がかかりづらくなり、実態以上に産科医が減少したように感じられる。一方で母体が危険にさらされたときは複数の産科医や麻酔医のフォローが受けられるため、出産の安全性は以前より増している。
小児科医に不足感があるのは、事情がまた異なる。06年の小児科医数は1万4700人で、過去12年間で1割増加している。それにもかかわらず「崩壊」しているとされるのは、緊急性の高い小児救急や、新生児を扱う小児科医が増えていないからだ。
親から「内科ではなく小児科の専門医に診てもらいたい」といった要望が強いことや、共働きで昼間の受診が難しい家庭が増えていることなども不足感の背景となっている。